それは小さな家だった
今日は、あたたかな晴れのいち日だった。
ここ数日、よいお天気がつづいている。
夢のお話をしよう(第24話)。
夢のなかの季節は冬、たぶん12月頃だと思う。
どこか懐かしさの感覚を思い起こさせるふるびたアパートの一室だった。薄暗い畳の部屋に、5歳くらの女の子がひとり窓辺に立っていた。
窓の外には住宅街の夜景がひろがっていた。3階くらいからの眺めだろうか? 粉雪がちらちらと舞っていた。
女の子は窓を開けると身を乗り出した。薄く雪の積もった通りに、男の子の姿があった。女の子と男の子の雰囲気はどこか似ている。もしかしたら、兄妹なのかもしれない。
「はやく投げて」と、男の子の声がした。
どこから持ってきたのだろう、女の子の手には1枚のスカーフが握られていた。スカーフの色や柄は暗くてよく分からない。
「それっ!」
女の子の投げたスカーフが、夜の街を背景にくるりと宙を舞った。そのまま小さな家に姿をかえて、夜空をふわふわと漂った。
「はやく、はやく」男の子が女の子を呼んだ。「はやく追いかけないと、見失っちゃうよ」
アパートから出てきた女の子の手を男の子は引っ張った。
「ほら、あそこに見えるでしょ」
小さな家が淡い光りに包まれ、夜空に浮かんでいた。
女の子はうれしそうな笑顔だった。その小さな家は彼女にとって、しあわせのしるしのように見えていたのかもしれない。
夜空を漂う小さな家を追いかけて、ふたりはひとけのない街の通りを駆けていった。
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