5月の日記 村上春樹 短編集「女のいない男たち」
今日のお天気は晴れ。
わが家のバラがちらほとらと咲きはじめた。
たまには読書のお話でも……
村上春樹 短編集『女のいない男たち』の図。
「まえがき」によると短編集の刊行は『東京奇譚集』以来、9年ぶりだそうです(もうそんなになるのかぁ… と思う)(光陰矢のごとし…)。
『女のいない男たち』とてもよいです(素晴らしい!)。この短編集におさめられているのは2013年から2014年にかけて発表された6作品(書き下ろし1作品を含む)。
- ドライブ・マイ・カー
- イエスタデイ
- 独立器官
- シェエラザード
- 木野
- 女のいない男たち(書き下ろし)
全作品を読み終えて(作家としての)「円熟期」という言葉がふと思い浮かんだ。マ・ノン・トロッポ(しかし過度でなく)の語り、けっして語りすぎないことの奥深さ。
このなかでは「木野」をずいぶんと気に入っている。古い時代の心地よいジャズのリズム、バーの名前は物語の主人公と同じ「木野」、灰色の野良猫がちょくちょくやって来る、カミタと名乗るミステリアスな男、やがて蛇を見かけるようになる、猫の失踪、主人公は店を離れる、雨降り、ビジネスホテルの窓ガラスはこまかい水滴に覆われていた、執拗に扉をノックするものがいる…… 「過剰」ではなく「空白」(欠落)がイメージを求めて語りはじめる。
「記憶は何かと力になります」と教えてくれたのはカミタだった。主人公は初夏の風に揺れる柳を枝を思い描く。そして、こころが深く傷ついていることを(あらためて)認識する。切実なイメージだけにひらかれた(許された)場所がある。
5月はこんなところです。
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