レインコート
夕暮れの細い道を歩いていた
闇に沈みかけた家は大きな木々に囲まれていた
(帰ってきた 帰ってきた)
こころが渦を巻いた 玄関の引き戸を開けた
ただいま
暗がりの奥から ぱたぱたぱたと足音が聞こえてきた
レインコートを着た姉の姿が見えた
夜には雨が降るのかなあ?
返事はなかった
わたしとすれ違うように足早に出て行った
いってらっしゃい
からだを丸めて その場にしゃがみ込んだ
ごめんなさい
(どうすることも出来ない悲しみもある)
姉はいつも子供の眼をして怯えていた
わたしは知っていた でも なにも知らなかった
空想は湿った土の匂いだった
時間は捩れたまま静止している
#0139
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