街の外れの市立図書館 分館
駅から線路沿いに歩く すり鉢状の窪地を下りてゆこう
いっけん雑居ビルふうの外観 ここ市立図書館の分館なんだよ
知ってた? 意外と知らないひともおおいんじゃないかな?
よく故障するエレベーターは遠慮して階段を使おう
五階の談話室Aが わたしのお気に入りなんだ
セルフサービスで温かなコーヒーや紅茶も飲めるよ
それにしても急な階段だな 消防法に抵触しやしないか?
ふう やっと到着 ここでひと休み 落ち着くな
大理石のテーブルって ひんやりしていて気持ちいい
これって もとは解剖台として使われていたんだって
だからこんなに冷たいのかな? もちろん冗談だよ
コーヒーを飲もう ミルクを増量 お砂糖はなし
この部屋には窓がひとつもなくて かわりに障子が見えるでしょ
障子を隔てて隣りにもうひとつ部屋があるんだよ
みやびな和室らしいけど 本当のところは分からない
いちど障子を開けたら そのまま帰ってこられなくなるんだって
黄泉の国への通路だって言うひともいたな 怖いよ……
和室でくつろぐのは好きだけれど 障子を開ける勇気はないな
あくまでも噂話だよ さて 今夜読む本は何にしよう
いつものように 探偵小説の棚から巡ってみようか
あそこにゆくと不思議とバニラの香りがするんだよな
#0156
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