わたしの知っている彼女のこと
空の高さはこの胸を苦しくさせるほどだった
それでも大気の微細な塵は遠景を微かに曇らせていた
彼女への敬愛は純粋で素朴なものだったと思う
わたしたちは国道沿いの歩道を並んで歩いていた
ひとつの駅から もうひとつの駅にむかっていた
はっとして立ち止まると さりげなく後ろを振り返った
わたしから五―六歩離れて彼女が歩いていた
痛みとも 悲しみともつかない感情だった
手をつないで歩こう
彼女は大柄なひとだったから その手の小ささに戸惑った
少女漫画に登場する女の子たちの絵空事の手のようだと思った
彼女の手を引いて歩調をあわせて歩いた
駅の階段を下りていった
地下鉄の改札口付近は行き交うひとたちで混雑していた
気がつくとひとの流れから取り残されて彼女の姿を見失った
ひとりで列車に乗ったのかな?
立ち去りたくはなかった
彼女とは互いに見つめあうこともなく 言葉も交わさなかった
彼女が既に亡くなっていることは わたしも知っていた
だから探すことはしなかった
#0200
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