村上春樹 「風の歌を聴け」《9》
今日のお天気は雨。
このところ雨の日がおおいな……
村上春樹『風の歌を聴け』《8》からのつづき(1回目はこちら)。
僕と彼女のささやかな物語がはじまる
『風の歌を聴け』〈8〉を語ろう。ここから、この物語がスタート。といっても、物語そのものは、なんてことないお話なんだけれど……
彼女のアパートで「僕」は目覚める。
僕は裸のままベッドの背にもたれ、煙草に火を点けてから隣に寝ている女を眺めた。南向きの窓から直接入り込んでくる太陽の光が女の体いっぱいに広がっている。
映画のワンシーンのような情景。これから二人のどんな物語がはじまるのだろう?
「僕」の彼女への説明によると、彼女は「ジェイズ・バー」の洗面所で泥酔して倒れていたそう。「君あての葉書」が彼女のバッグに入っていたので、そこに書いてあった住所をたよりに、彼女をアパートまで連れて帰り寝かせたという。
「僕」は「朝起きた時も帰ろうと思った」でも帰らなかった。
「何故?」
「少なくとも何があったのか君に説明しなきゃいけないと思ったんだ」
「ずいぶん親切なのね」
朝、目が覚めてとなりに知らない男の人がいたら怖いよ…… 男の人は朝起きて隣に女の人(ほどほどに美人の女の子)がいたら、どんな気持ちなのかな?
『1973年のピンボール』からの引用。
目を覚ました時、両脇に双子の女の子がいた。今までに何度も経験したことではあったが、両脇に双子の女の子というのはさすがに初めてだった。二人は僕の両肩に鼻先をつけて気持ちよさそうに寝入っていた。
ははは…… こういうのって男性の願望? 双子の女の子について、さらに引用しておこう。『村上朝日堂 はいほー!』から「村上春樹のクールでワイルドな白昼夢」より。
僕の夢は双子のガール・フレンドを持つことです。双子の女の子が両方とも等価に僕のガール・フレンドであるということ――これが僕のこの十年来の夢です。
なるほど…… 『風の歌を聴け』に戻ろう。
「でもね、意識をなくした女の子と寝るような奴は……最低よ」
「でも何もしてないぜ」
わたしも、この「僕」は彼女に何もしていないと思う。ただ、いっしょにベッドで寝ていただけ、そう信じたいな。彼女への「僕」の説明は、いくらかつくり話かもしれないけれど……
なんとなくだけど、この「僕」は寂しかったんだと思う。だから「ジェイズ・バー」に通ってお酒を飲み、女の子のとなりで寝たんじゃないかな。誰にだって、こころの寂しはあるものね。
それをどのように表現するかは、人それぞれ。
- 次回 「風の歌を聴け」《10》
- 前回 「風の歌を聴け」《8》