鞠十月堂

詩と文学と日記のブログ

安部公房 「密会」《2》 登場人物と物語の舞台

 安部公房『密会』《1》からのつづき。

 『密会』の登場人物と物語の舞台について語ってみよう。

登場人物

 はじめに主要な登場人物たちをご紹介。

 ぼく――三人称での表記は「男」。年齢32歳。身長1.76メートル、体重59キロ。やせ型で筋肉質(運動神経はいいらしい…)。スバル運動具店に勤務。結婚して5年になる。

 妻――「ぼく」の妻。年齢31歳。早朝、突然アパートに乗りつけてきた救急車で病院に搬送され、そのまま行方不明になってしまう。前夜祭の見世物(怪しげなコンクール)で出会った「仮面女」が妻だったのだろうか……

 副院長・馬――巨大病院の副院長。軟骨外科の部長も兼任している。小柄な体型。特殊なコルセットを装着して、他人の下半身を補助下半身として腰の後ろにつなぐことが出来る(2本のペ○スを持つ馬人間)。

 女秘書――副院長の秘書。年齢は二十代後半。試験管ベビー。元は言語心理研究所で行われた実験の被験者だった。

 溶骨症の娘――骨がゼリーのように流体化してゆく「溶骨症」で、軟骨外科病棟の八号室に入院している少女。年齢は13歳。「ぼく」によって病室から連れ出される。

 娘の母親――溶骨症の娘の母親。毛穴から綿が吹いてくる「綿吹き病」により死亡。病院の記念館には、そのときの綿でつくったふとんが展示されている。

 当直医――「ぼく」の妻が救急車で搬送されたときの急患当番だった若い医師。〈ホ四〉号棟の二階から転落して意識を失う。

 警備主任――溶骨症の娘の父親。元電気技師。トレパン姿の若者たちにより殺害され、その下半身が副院長の補助下半身として使用される。

 副院長夫人――副院長の妻。言語心理研究所に勤務。嘘発見器の権威で、夫婦の会話にも嘘発見器を使っていた。副院長とは別居中。

 トレパン姿の若者たち――病院の警備要員(耳鼻科、皮膚科、精神科などの患者が務めている)。

 仮面女――前夜祭の見世物(怪しげなコンクール)の出場者。仮面女は「ぼく」の妻なのだろうか? (真相は分からない…)

 真野斡旋――病院専門の紹介代理業者。入退院などの手続き業務を代行している。入院患者の「連れ出し」など、病院の裏事情に詳しい。

物語の舞台

 ひきつづき、物語の舞台を語ろう。

 外来棟――構造物が無造作に積み上げられた「旧式の軍艦」のような建物。「ぼく」の妻が救急車で搬送されたのが、ここの夜間通用口だと思われる。

 病院本部――細長い角棒のような建物。最上階に副院長室と警備室がある。警備室には1712回路同時作動の盗聴システムがあり、病院全域を監視下においている。

 軟骨外科病棟――鉄筋モルタル三階建のふるびた建物。二階の八号室に「溶骨症」の娘が入院している。三階に軟骨外科部長(副院長が兼任)の部屋がある。地階の通路は病院旧館とつながっている。

 旧病院跡――病院旧館はそのほとんどが地中に埋まっている(空襲神経症だった院長が病院を建物ごと埋めてしまったらしい…)。「ぼく」と溶骨症の娘は旧館の三階を隠れ家にしていた。

 〈ホ四〉号棟――墓地拡張予定地の二階建集合住宅。当直医が使用していた。その後「ぼく」の仮住まいとなる。

 言語心理研究所――病院の施設のひとつ。副院長夫人が勤務している。嘘発見器などの設備がある。

 旧陸軍射撃演習場跡――四本足(馬人間)の副院長が歩行の練習(跑足の練習?)に使用。

 見晴銀座――地下商店街。普通の商店街ではあるけれど、奥にすすんでゆくと「各種臓器売買の相談に応じます」などの表示が……

 登場人物、物語の舞台ともに独特の雰囲気がある。8年ぶりに『密会』を読み返した安部公房は「だんだん《病院》のなかで暮らしているような気分になってきた。もちろん愉快ではなかった。たまらなく怖かった」と語っている。1977年に描かれた奇妙で不気味な巨大病院は、2011年のいまも入院患者を募りつづけている…… (怖い…)

 次回はあらすじ(時系列編)を語ろう。

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