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鞠十月堂

詩と文学と日記のブログ

安部公房 「密会」《3》 あらすじ

安部公房

 安部公房『密会』《2》からのつづき(1回目と目次はこちら)。

 『密会』のあらすじについて語ってみよう(登場人物と物語の舞台については《2》に書いてあります)。

あらすじ

 『密会』は「ぼく」が執筆したノート〈1〉~〈3〉+付記という構成になっている。ノートの記述は、それぞれの出来事が「いま」「昨日」「明日」「三日後」などで関係づけられていて、全体の時間の流れのなかでは、その位置づけがずいぶんと分かりにくい。

 これは何日目の出来事だろう? あれから何日がすぎたのだろう…… とページを繰って読み返してみても、すぐには分からない(安部公房らしい迷路の感覚…)。ということで、ノートの記述を時系列(時間順)で並びかえてあらすじをつくってみた。

1日目

01 ある夏の早朝(午前4時頃)、誰も呼んだ覚えがないのに救急車が突然やって来て「ぼく」の妻を連れ去ってしまう。

02 消防署で救急車の搬送先を訊ね、妻が収容された病院へむかう。午前8時すぎ、訪れた病院の近くで真野斡旋(病院専門の紹介代理業者)の女に声をかけられる。盗聴器による「ぼく」の監視がはじまる。

03 夜勤明けの守衛から、妻が搬送されたときの状況を聞く。妻の足どりは、本来密室であるはずの外来待合室でぷつりと途絶えていた(守衛の話は「ぼく」が直接聞いたものとは別に「著名捺印された供述」の記述がある)。

04 守衛の話から当直医(急患当番の若い医師)が怪しいと推理。尾行を開始する。病院を出て、墓地拡張予定地の〈ホ四〉号棟二階の一室へ入ってゆく当直医。窓越しに室内の様子をうかがっていたところを見つかってしまう。ふたりとも地面に落下。「ぼく」は無傷、当直医は失神。

05 部屋の電話が鳴り、状況を把握していることを告げられる(「ぼく」の行動はすべて監視されていたのだった…)。白のライトバンが現れる。乗っていたのは副院長、警備主任、女秘書の三人。「ぼく」と失神している当直医を乗せて病院にむかう。

06 女秘書と副院長室へ行く。副院長と面談(妻についての情報は得られなかった)。
 ※ 1本目のカセットが終了。

07 女秘書の案内で警備主任を紹介される。再生室で約5時間、病院内の盗聴テープを聞く(これといった手掛かりは得られず…)。
 ※ 警備主任と会う場面から2本目のカセットがはじまる。

08 女秘書と病院の食堂で食事。その後、軟骨外科病棟に行く。二階の八号室で溶骨症の娘と出会う。副院長と意識を失った当直医の怪しげな生体実験(?)の場面を覗き見る。

09 女秘書に寝泊まりの場所として〈ホ四〉号棟の部屋(当直医が使っていた部屋)を案内される。女秘書から副院長の「馬人間」構想の話を聞かされる。

10 当直医の下半身は看護婦たちのいい遊び道具にされ、副院長の補助下半身としては使用出来なくなる。

2日目

11 再生室で盗聴テープを聴く。午後、主任室を訪れるとトレパン姿の若者たちが部屋になだれ込んでくる。警備主任を窒息死させ、その死体を運搬用ベッドに乗せて運び去る(この殺害は女秘書の指示らしい)。

12 死体となった警備主任が上半身と下半身に切り分けられる。上半身は火葬され、下半身は副院長の補助下半身として生命維持装置の中で保管される。

3日目

13 朝早くに緊急評議委員会が開かれ、「ぼく」が新たな警備主任に任命される。

14 再生室で盗聴テープを聴く。昼近く、女秘書が略式の辞令や預金通帳を手にして現れる。

4日目

15 午前8時頃、軟骨外科病棟へ出かける。八号室で溶骨症の娘と副院長の怪しげな行為を目撃。8時40分頃、溶骨症の娘を病室から連れ出す。娘を背負い病棟の地下通路をすすむ。やがて通路の壁にもたれ、娘と共に眠り込んでしまう。娘の捜索がはじまる。

16 副院長が生命維持装置の中で保管されていた下半身(前警備主任)との神経的接合に成功(二本のペ○スを持つ馬人間の誕生!)。

17 溶骨症の娘を連れ出して約12時間が経過。午後8時44分、ようやく眠りから目覚める。車椅子や懐中電灯などを確保。娘を車椅子に乗せ、さらに奥へとすすんでゆく(ふたりが隠れ家にしたのは、地下に埋もれた旧館の三階だった…)。

5日目

18 午前4時10分頃、旧陸軍射撃演習場跡に副院長(馬)の食事を届ける。その場で1冊のノートと3本のカセット・テープを渡され、調査を依頼される。

19 カセット・テープは「ぼく」を盗聴器その他で追跡した記録だった。その録音をもとにノート〈1〉の執筆をはじめる(これは「精密な被害届の作成」だろうと「ぼく」は推測する)。

 (ノート〈1〉には「今ぼくは〈ホ四〉号棟のあの部屋で、このノートを書きすすめているところだ」とあるけれど、実際には〈ホ四〉号棟と地下の隠れ家を行き来しながらノートを書いていたものと思われる)

20 午後11時頃、ノート〈1〉の執筆を終了(記述されたのは[01]~[06]、[18]~[20]の出来事)。

6日目

21 午前4時34分、副院長(馬)からの電話で起床。旧陸軍射撃演習場跡に副院長の食事を届ける。ノートがすべて仕上がらなかったことを報告。副院長はノート〈1〉を取り上げ、「ぼく」に2冊目のノートの代金を渡す。

22 ノート〈2〉の執筆をはじめる。副院長から電話があり、遅い夕食に誘われる。

23 夜、副院長が車で迎えに来る。ノート〈2〉の執筆を終了(記述されたのは[07]~[08]、[21]~[23]の出来事)。

24 副院長宅に食事に招かれる。女秘書が「試験管ベビー」であることや、副院長が「人間関係神経症」であることなどが明かされる。副院長は「ぼく」が八号室の娘を連れ出したのではないかと疑っている(ノート執筆の依頼も、そのための探りを入れるのが目的だったらしい…)。「ぼく」はその指摘を否定。副院長から嘘発見器のテストを受けるように要求される。

25 言語心理研究所で、副院長夫人による嘘発見器を使用した尋問を受ける(尋問は問題の核心に触れることなくあっさり終了)。地下の隠れ家に帰る。

7日目(前夜祭)

26 ノート〈3〉の執筆をはじめる(このノートは副院長の依頼によるものではない)。

27 午後5時2分、前夜祭の呼び込みの太鼓が鳴り響く。午後6時7分、ノート〈3〉の執筆を終了(記述されたのは[24]~[25]、[09]~[14]、[15]~[17]、[26]~[27]の出来事)。地下の隠れ家を出発。溶骨症の娘と共に前夜祭の会場へむかう。

 (ノートの記述はここで終わり、それ以降の出来事については「付記」となっている)

28 記念館わきから地上へ出たところで女秘書と遭遇(どうやら隠れ家での会話を盗聴されていたらしい…)。女秘書から娘の母親のふとん(綿吹き病の綿から作ったふとん)を手渡される。よろこぶ娘。

29 地下商店街「見晴銀座」で副院長を発見。「ぼく」、溶骨症の娘、女秘書の三人で後を追う。行きついた先は怪しげなコンクールの会場。掲示板の「仮面女」が妻かもしれないと思うものの確証は得られず……

30 副院長に声をかけられる。休憩室に娘と女秘書を残し、「仮面女」の部屋に副院長と入ってゆく。ここでも「仮面女」が妻かどうかは分からない。

31 休憩室に戻ってみると、溶骨症の娘をクッションにして女秘書が車椅子に腰掛けていた。女秘書の腕をつかみ、投げ飛ばす。トレパン姿の若者たちから暴行を受ける。意識を失う。

32 暗闇のなかで意識を回復する(ここは旧館の二階らしい…)。溶骨症の娘も無事だった。車椅子を押して出口を探す。しかし出口は見つからない。

8日目(創立記念祭)

33 病院の創立記念祭当日。「明日の新聞」によれば「馬人間」と「仮面女」の交合は、参加者一同につよい印象を与えたという。

××日目

34 車椅子に積み込んでいた食料も底をつき、飲み水もなくなった…… 「明日の新聞に先を越され、ぼくは明日という過去の中で、何度も確実に死につづける。やさしい一人だけの密会を抱きしめて……」

 ノートの記述を時間の流れに沿って並べかえると、おおよそこんな感じになるだろうか(思いのほか手間のかかる作業になった…)。それぞれの出来事を丁寧に書きとめながら作成したあらすじではあるけれど、ノートの記述といくらかつじつまの合わないところもある(あらら…)。なので暫定ということにしておこう……

 次回はノートの記述とあらすじの整合性を検討しよう。

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