鞠十月堂

詩と文学と日記のブログ

〈小さな鷹〉 チームBのレポート

I チームBは最新の探索機器を使っていたでもそれは あまり役には立たなかったらしい晩夏の深く暗い針葉樹の森だった II 誰もが不安を覚えていたわたしたちは落葉を踏みしめ歩きつづけたどのようなときも つよいこころでありたい互いに声を掛け合い励まし合…

ロイ・リキテンスタインの画集

ロイ・リキテンスタインの画集を探していたでも見つからない おかしいなあ どこにいったのだろう?もしかしたら…… 研究室の戸棚のことを思い出した実験の待ち時間に読むための本を何冊も隠していた本の入れ替えをしたときに紛れ込んでしまったのかもしれない…

わたしの知っている彼女のこと

空の高さはこの胸を苦しくさせるほどだったそれでも大気の微細な塵は遠景を微かに曇らせていた彼女への敬愛は純粋で素朴なものだったと思うわたしたちは国道沿いの歩道を並んで歩いていた ひとつの駅から もうひとつの駅にむかっていたはっとして立ち止まる…

洪水

ぼくたちの復讐は痩せた空想を飼育することだった遅れた時代の波打ち際でいくつもの漂流物を集めてまわったそれらを自在に組み合わせよう 巨大な客船をつくろうなにも実現しないのだから すべては容易く成し遂げられる出港前夜の祝杯をあげよう 洪水のための…

午前4時半の素描

なにかを語りはじめる夜明け前ひと粒の真珠のような時間のなかにいたすぐそこに見つけられるものを永遠のように眺めているぼくたちの夢見ることはこんなにも脆弱になってしまった古風な実験室ではフラスコがアルコールランプで加熱されて精緻なガラス製の蒸…

失った愛の時代には

失った愛の時代には いまとは違う言葉があってもよいと思う小さな夜をいくつも集めて世界都市ほどの翼をつくってみたい 翼よ!なにものにも臆することなく どこまでもひろがってゆけきみたちの見忘れた夢が おおきな愛へと反転してゆく #0197 次回 午前4時半…

小さな世界のこと

小さな世界で生きてゆくことにしたわたしが訪れた寡黙で親密な廃墟の街は誰の姿も見つけることが出来ないのにそこかしこに ひとの暮らしのあふれる気配があったどのような憎悪も 欺瞞も 別離も 悔恨も既に遠く去ってしまったのだから夏の夜と甲虫たちのため…

雨は降りつづいていた 2

雨は降りつづいていた渦巻きの形をした眠りのなかにいた真夜中のエレベーターは降下をつづけていた点灯していたのは〈地獄ゆき〉のランプだった直立したまま夢を見た 時が咀嚼される残酷を聞いたよ辺境に消えた記憶のエコーはどこから洩れ届くのだろう見失っ…

アジサイ 雨降り 小さな宇宙

アジサイ 雨降り 小さな宇宙寄り集まる花たちの有機的思考体系色彩の演算子が打ちつける雨粒―雨音を解析する未来からの〈声〉を読み上げる ねぇ きみ 空を見上げてごらんよ雨のひと粒ひと粒が世界の運命を左右しているとしたら愉快だと思わないか? #0194 次…

夜を歩く

夜を歩く 駅前の階段を下りる左折 陸橋を渡る アーケード商店街を抜けるふと見上げたアパートの窓から転がり落ちてゆく物語たちころろん (あり得た世界だけが わたしたちに語りかけてくるいつだって おおすぎる言葉たちに囲まれていたあり得たかもしれない…

寡黙な螢たちよ 自由は其処彼処にあるのだから夢で語られた言葉へと躊躇うことなく飛んでゆけ #0192 次回 夜を歩く 前回 言葉の国

言葉の国

階段はこっち 今日は特別に案内してあげるよほらここ 引くと開くんだよ 隠し扉みたいでしょ?あちらのソファへどうぞ くつろいでね わたしの席はこちら窓辺のくすんだ光がわたしのこころなんだ床に積み上げられた本の迷路が城壁なんだ言葉たちの小国ではわた…

ある青年のこと

既視感は三秒先の未来の記憶だったぼくは未来の記憶に誠実でありつづければよかったぼくの人生は如何にも決定論的だだからといって三分後の未来が分かるわけではないぼくの自由意思が ぼくの三分後の未来だ (安部公房『鞄』の変奏) #0190 次回 言葉の国 前…

カエルくんのこと

思いがけなくカエルくんと出会うこともあるご機嫌いかが? わたしはカエルくんのことが好きでも世間はカエルくんに好意的なひとばかりじゃないカエルくんを見つけては こっそり蛇遣いに連絡するひともいるどうしてそんなことするかなぁ 理解にくるしむ (カ…

夜の猫のように

夜の猫のように冒険したいと思った公園のつつじの植えこみから出発しよう 夜の秘密のすべてを見えなくなるまで汲んでしまおう幸せであることは こんなにも容易いことなのさ #0188 次回 カエルくんのこと 前回 時代の夢と作家

時代の夢と作家

時代の夢が作家Aのこころにリボンを結んだそれは誇ってもよいことだとAは笑顔で答えた 歩いてゆけるだけの場所にも幸せはあるという愛が世界を見渡そうとするときの戸惑いをAは語った 小さな部屋と小さな机をAは借りた これで十分さ明日から届けられた手…

もっと大切な言葉が

もっと大切な言葉があるはずだと思うでも どこに?並木のいっぽん道を夢で出会った原野のように歩く遠くを見つめた 花籠のなかの花たちのことを考えた両手いっぱいの沈黙が ぼくたちの合言葉だった #0186 次回 時代の夢と作家 前回 もっと美しい言葉が

もっと美しい言葉が

もっと美しい言葉があるはずだと思うでも どこに?城壁のくぼみを指でなぞり ぼくたちは言葉を探した夕暮れは冒険だった 〈失われた〉という王国があったぼくたちは いちど忘れられて残されたものたちだ #0185 次回 もっと大切な言葉が 前回 こころ

こころ

なめらかな卵の曲面にこころを沿わせる永遠の未来に隔てられた殻のむこうから声が届くいつしか搏動する生命とひとつになる #0184 次回 もっと美しい言葉が 前回 名前をもたない子供たち

名前をもたない子供たち

I わたしはNの物語を埋葬したいんだ なぜって?わたしはいまでも名前をもたない子供たちを愛しているから II 小鳥のさえずりや木洩れ日だけが知っていた野道を歩こう どの道をすすめばいい?森の奥深くに巨大な木造建築の講堂があるという磨き上げられた床に…

語りたいのだ

粗い言葉の格子のむこうに咲きほこる睡蓮の幻を見た子供たちは精神の瀬戸際をダンスのステップですすむ わたしは語りたいと思うのだなにかが押し寄せ なにかが引いてゆく さんざめく交感をただ それだけのために語りたいのだ #0182 次回 名前をもたない子供…

明晰な言葉が

明晰な言葉が好きだった朝露のひと滴ひと滴にに掛け替えのない世界を見つけるたくさんの小さな窓があった 窓辺で遊ぶ子供たちがいた 明晰な言葉の糸が深い谷からイメージを届けてくれる昨日まではざらざらと模倣された夜の世界に暮らしていた幸せは見つける…

レポート 2012A

午前中 自主勉強のレポートに取り組む床にモップをかける 書類棚の整理 予定表の確認ちょっと出かけてきますね なじみの雑貨屋のソファで居眠りをしていたらいつのまにかグリーンのカーディガンを着せられていたこれ 買うつもりはないんだけれど……そろそろ事…

歌われた世紀

世紀は暗い森の上空を旋回するジュラルミンの翼だった未来は捩れながら成長してゆくコンクリートの夢だった都市の死角から沸きたつ声を探偵はノートに書きとめるいま ぼくたちの愛が境界を越えてゆく #0179 次回 レポート 2012A 前回 憂鬱の小石

憂鬱の小石

窓の外は薄曇り 時折粉雪がちらちら微かな吐き気と軽い頭痛 気分は沈みがち 意識の確かさを計るために意識を記述する自由の確かさを計るために自由を記述する (疑い深いこころは不安を招く) 小石の重みについて(彼は)思考する小石の重みが思考するのを(…

グラスの時間

水で満たしたグラスの縁を中指でなぞってみる淡い光の輪と淡い影の輪がふるえて交錯するよほら 面白いでしょ 時間の水切り遊びなんだ眼差しは絶えず見えることの一秒先へとすすんでゆくからまだ なにもはじまっていない空白に愛が透けて見えるよ #0177 次回 …

旅行に出かけた

旅行に出かけた電車を乗り継いで ひなびた温泉宿に泊まる畳はいいよね ころりと寝転んで ひと休みちょっと眠いな このまま眠ってしまおうか目を閉じた おやすみなさい……と思ったら なにやら不穏な気配が 薄目を開けた窓の微妙に歪んだガラス越しに冬の空を眺…

深く 潜航せよ

深く 潜航せよ―― ぼくは きみの言葉をみつける 深く 潜航せよ―――― ぼくは きみのこころをみつける 深く 潜航せよ―――――― ぼくは きみと世界の絆をたしかめる (文学のための標語) #0175 次回 旅行に出かけた 前回 言葉って

言葉って

言葉って ひとの思考の総体でしょそれが見えすぎて怖くなるときがあるよね (みんなは平気なのかな 気にならない?) きらきらと砕けた方解石のように夢の底に沈んでゆく有機的な結び目を失い和声のように言葉が漂っていた #0174 次回 深く 潜航せよ 前回 先…

先生のこと 2

古風な洋館に招かれて先生とワルツを踊る夢を見るふわふわとした浮遊感 これ以上のしあわせがあるだろうかでも なんだか悲しいな どうしてだろうね?こんなときは散歩に出かけよう 落葉の小径を歩こう 昨日 みなさんにお話ししたような心理劇は苦手ですよ解…

鞠十月堂