ホテル トキノヤカタ
いつの頃からかホテル暮らしをしている
近未来の精巧な遠近法を思わせる巨大なホテルだった
夜になると漂流をはじめる小さな部屋だった
仮住まいに不自由したことはないし退屈もしない
ときおり にまい貝をひらくように湖底をさまよう夢を見た
ぼくたちは時に隔てられ 互いに失われたものたちだ
そこに置かれていたのは なまなましい死体ではなく
〈死〉は郵便配達人が落としていったいち枚の絵ハガキだった
ぼくたちは互いの秘密を愛しあうように推理する
(ぼくが生きることのなかった人生をきみが生きる
わたしが生きることのなかった人生をあなたが生きる)
入れ替わる部屋は無数の組み合わせに遊ぶ子供のようだ
ぼくはね いまもこんなふうに〈生〉を模索しているんだよ
ぼくたちは いくつもの夜を行き交うものたちだ
#0204