I
病院の廊下を歩いていた もしかしたら夢かもしれない
上着を脱ごう なにか現実からはじめなくてはならない
ああ 包帯が巻かれている 怪我をしたのは初夏だった
記憶は採石場の砂利の丘のようだ 転がり落ちる小石だ
オレンジの匂いがする 日傘のむこうの陽光を思い描こう
ああ だめだ すぐに霧のような雨が降りはじめてしまう
すべては暗く濡れてゆく あきれるくらいに安らかだ
カフェの椅子に掛けられた上着のことを覚えている
引き継がれてゆくものがある それは約束なのだろうか?
II
そのように書かれたいち枚のメモ書きを
いまもわたしは机の引き出しに仕舞っている
#0206