夕暮れと夜
I 襞
15歳というのはなにかしら奇妙な年齢だと思う
世界はいつも少しだけ歪んでいる たぶん5ミリくらい
それは誤差のようなものかも知れない でも……
5ミリの誤差が10ミリになり 100ミリになって……
世界は光を拒む深海のような襞に変貌してゆくのだとしたら
襞の無数の折り目にすべては飲み込まれてゆくのだとしたら
II 夕暮れ
夕暮れだった 商店街で友人たちと別れた また遊ぼうね
駅にゆく前に立ち寄りたいところがあった 本を買おう
行きつけの書店は古風で壮麗な洋館だった すごいや
買いたい本は先週確認しておいた 二階に上がろう
小さな窓から夕陽が差し込んでいた 書架の迷路をすすむ
あれ? 書架の一区画から本がごっそりなくなっている
たしかにここにあった筈だよ 棚の三段目 右の隅
残された本の背表紙を慎重に確認した やはり見当たらない
他のおおくの本といっしょに消えている 残念……
小さな奇蹟は突然訪れた 特徴のあるべっ甲の丸めがね
間違いようがない 先生だ こんなところで出会えるなんて!
からだがふわりと宙に浮いた 視界が明るい光でみたされた
気がつくとわたしは夢中で先生に話しかけていた
買おうと思っていた先生の本がなくなっていることを伝えた
先生はやさしい口調で あの本もよいがねとおっしゃった
もっとよい本がある それをきみに教えてあげるからね
いいかね 明日もこちらに立ち寄るから同じ時刻に来なさい
胸の高鳴りに泣いてしまいそうだった 分かりました!
III 夜
夜が迫っていた いま わたしはどこにいるのだろう
駅にむかうはずがいつのまにか帰り道をはずれて歩いていた
まばらな民家の窓が淡い光を放っている 妙に寂しい気分だよ
やがて民家もなくなった 山の中腹に道路が走っている
あそこまでゆけば帰れるのかな? でも よく分からないよ
明日の夕暮れまでに書店にゆけばいい それでいいんだ
#0213
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