皆さんご存知のように首都にはいくつもの秘密がある
臨時の特急列車が到着したのは真夜中だった
雑踏のハーモニー 窓口には顔のない顔の長い列が出来ていた
首都に充満するメランコリーはあの頃のままだった (回想)
待ち合わせておいたお友だちと合流した (抱擁)
さあ出かけよう 手をつなぎ 肩と肩が触れあうほど寄りそった
つんと煤煙の匂いがする川沿いの道を下っていった
赤錆びた仮設の橋を渡った 再開発の工事現場に見えるでしょ
でも違うんだな 闇にまぎれて柵をくぐり抜けた (侵入)
泥炭の採掘跡地なんだ その地下にある秘密を探ろう
坑道入口から淡い光がもれていた 扉は朽ちて倒れている
乱雑に資材が積み上げられた坑道は傾斜がきつくて歩きにくい
つないだ手が湿っぽくなってゆく (胸の鼓動もはやくなる)
見てごらんよ 予想以上のスケールだった (凝視)
半円形の巨大な空洞は月明かりに照らされた密林を連想させた
すべての色彩を灰黒色に置きかえられた沈黙の樹木たち
地殻変動に飲み込まれ 永遠の姿を与えられた化石の森
鋼鉄の足場が組まれた高所ではいまも発掘作業がつづいている
白衣の技師たちの身軽な動きは天使のようだね (空想)
皆さんご存知のように首都にはいくつもの秘密がある
不用意に近づくと命にかかわることもある 気をつけましょう
思考より前にからだの緊張が教えてくれた (長居は禁物!)
お友だちの手を引いていま来た坑道を早足で引き返した
なんの前触れもなく 太古の巨木の化石たちが一斉に燃えあがる
坑道口から天にむかって炎が吹き上がった (業火)
危ないとこだった (大丈夫?)
危なかったね でも平気 技師のひとたちは?
誰もいなかった わたしたちだけ
技師はいなかった?
わたしたちを安心させるための幻でしょ (作為)
怖いな…… とても怖いよ
夜が明けようとしていた 始発の列車で首都を後にした
昇ってゆく炎はなにひとつ言葉を持たない (悲哀も 憎悪も)
今度はいつ お友だちと会えるだろうか?
#0217