村上春樹 「風の歌を聴け」《14》
今日のお天気は小雨。
こちらの気分は、ほどほど。
村上春樹『風の歌を聴け』《13》からのつづき(1回目はこちら)。
厳しさの断章 村上春樹の執筆スタイル
『風の歌を聴け』〈18〉では、「僕」のところに、レコード店でアルバイトをしていた女の子から電話がかかってくる。彼女はこれまでの「僕」とのやりとりを謝りたいらしい。
「……私のことを怒ってる?」
「どうして?」
「ひどいことを言ったからよ。それで謝りたかったの」
そうなんだ…… わたしは、あのとき彼女が「僕」に言ったことを謝らなくてもいいと思うけれど…… 彼女は、そのいくらか乱暴な言動とは反対に、とても真面目な女の子。
「あなたがどう感じているかって問題じゃないのよ。少なくともあんな風に言うべきじゃなかったと思うの」彼女は早口でそう言った。
「自分に厳しいんだね」
「ええ、そうありたいとはいつも思っているわ」
「自分に厳しい」って言葉がこころに残る。こういう自分への厳しさはどこか切ない。『ノルウェイの森』第1章から直子の言葉を引用しよう。
肩の力を抜けば体が軽くなることくらいわたしにもわかっているわよ。(……)もし、私が今肩の力を抜いたら、私バラバラになっちゃうのよ。私は昔からこういう風にしか生きてこなかったし、今でもそういう風にしか生きていけないのよ。(……)
彼女もまた、自分に厳しい女の子だった。こういう女の子が、村上春樹の好みなのかな? そして村上春樹自身も(表にはあまり出さないけれど)自分に厳しい人だとわたしは思ってる。
『少年カフカ』のインタビューから。
執筆の日課というのは僕の場合すごく厳密に決まっているんです。(……)朝はどんなに遅くても4時には起きます。もっと早く起きることもある。三時とかね。(……)そしてコーヒーを飲みながら、四時間か五時間ぶっとおしで書きます。
(……)
正直言って、半年間ほぼ一日も休まず物語を書き進めるっていうのは、体力的にも精神的にも大変だったです。
村上春樹も人間なので、その時々で好不調はあると思う。それでも毎日きっちりと集中して作品に取り組む姿勢は、ほんとうに素晴らしい! そうすることではじめて、物語の森奥深くに入ってゆくことが出来るのだろうか。
わたしも、わたしの厳しさのなかを生きていきたい。
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