夜の大海原
水平線は見えない
明るいものはなにひとつない
深紅の豪華客船が 闇に包まれてすすむ
これは旅なの?
あれから どれくらいの時間がすぎたの?
あまりに長い時間は なにを物語っているの?
手にした乗船券の文字は かすれて読めない
海鳥たちは 静けさの海で眠りつづけているの?
彼らはいまも 終わりのない夢を見つづけているの?
あたたかな羽毛の安らぎのなかで
飛ぶための翼があることを忘れてしまったかのように
わたしは この船に乗るべきだったの?
わたしは あの埠頭で待っていればよかったの?
おおきな声で ただ あのひとの名前を呼べばよかったの?
届くことのない その声で
深紅の豪華客船が 夜の海をゆく
風が唸り 波が砕けた
つよい潮の香りが わたしに真理を伝えてくれた
そこにある原始のいのちが 生きる術を教えてくれた
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