鞠十月堂

詩と文学と日記のブログ

六番目の子

昨夜から降りつづいている雨は上がる気配がない床に置かれた傘は全部で六本 わたしたちは全員で五人そのうちひとりは眠っている あとひとりの行方は分からない 六番目の子を誰か知っていますか?その子の名前や顔を知っていますか? その子のことを誰も知ら…

創造の場所は

創造の場所は清浄である方がよいひとつの音が届いて やがて消えてゆくときの姿を知っている空想のなかで ありありと手に触れていられるものがあるもういちど この手が結びつけようとするものがある #0231 次回 六番目の子 前回 ゼロの記憶が反復されると

ゼロの記憶が反復されると

ゼロの記憶が反復されると視界がみるみる暗くなってゆく千の空っぽの夢が見えない腕のように伸びて天空を支えていたポケットに小さな眠りをしのばせて雨上がりの街路を歩く このまま駅にむかおうか 商店街の古書店に立ち寄ってみようかこころひかれる異国の…

6月の太陽に温められた

六月の太陽に温められた石造りの堅牢な城壁を一匹の甲虫が小さな鉤爪のある脚を巧みに使い登っていた寡黙で孤独な眼差しにも互いに分かちあえるものがあると思うぼくたちはイメージは自在であれと青空が語るのを聞いた #0229 次回 ゼロの記憶が反復されると …

雨降りの木曜日

雨降りの木曜日 明るい窓辺でノートに小さな図形を描くお散歩するようにゆっくりラインを引こう いそがなくていいラインは弧とすれ違い右に短く折れ曲がる 傾斜を下る眼差しが見つけたものを指先が追いかける 拾い上げようとする 一本のラインが〈かつて〉を…

眼差しの後ろに

眼差しの後ろに歌を置いてゆく歌声の後ろに言葉を置いてゆく 小さな椅子 丸テーブル 壁紙の小鳥たち幾何学模様に謎を探すとわたしが消えてゆく #0227 次回 雨降りの木曜日 前回 手と手をつなぎ

手と手をつなぎ

手と手をつなぎフォークダンスを踊るようにいまを生きよう (ぼくたちはなにも語らなかったぼくたちはなにかを語るための術をなにも知らなかった) 太鼓のリズムと素朴な歌声がぼくたちの眼差しだった求めることがないのだから探さなくていい (単純な所作で…

空想のための詩的な蔓棚

空想のための詩的な蔓棚ですごすひとときが好きです凡てを手放してしまえるから なんと身軽になれることかすばやく言葉の蔓をつかみ 振り子のように揺れて遊ぼうほら 世界がまわりはじめる 万華鏡のように景色がめぐる記憶と時間は散り散りに裁断されて永遠…

時代と歌

どこからともなくカタカタカタと音が聞こえてきた薄暗い方に視線をむけた なにかが動きつづけている気がしたなにが? 見えるはずのないなにものかに姿を与えてみようか湿っぽい路地の上から いくつもの空想の足跡をならべてゆくとひとつの時代が軋み 斜めに…

深い霧のなかに

深い霧のなかに複数に分岐した道があるいくつかの可能性のなかから やがてひとつを選択するこちらにしようか あちらにしようか けものみちもあるよ立ち止まって考えはじめるとむつかしくもあるそこから先の物語にはさほど興味がないんだいちどかぎりの他とく…

永遠のこと 四月 パウル・ツェラン

詩は新ブログに移転しました。 http://nightinriver-22.hatenablog.com/entry/詩/2013-04-11 #0222 次回 深い霧のなかに 前回 談話 彼女の語ったこと

談話 彼女の語ったこと

観覧車くらいのおおきな〈車輪〉を想像してくださいなおおきな〈車輪〉が回転すると世界がおおとどよめきますよむかしはそれが可笑しくて ひとり隠れてよく笑っていました 世界を転換するおおきな〈車輪〉のかわりにですねおおきな弧を描いて わたくしが広場…

わたしは語りたいと思うのだ

詩は新ブログに移転しました。 http://nightinriver-22.hatenablog.com/entry/詩/2013-03-21 #0220 次回 談話 彼女の語ったこと 前回 いつの頃からか知っていた

いつの頃からか知っていた

詩は新ブログに移転しました。 http://nightinriver-22.hatenablog.com/entry/詩/2013-03-03 #0219 次回 わたしは語りたいと思うのだ 前回 道のこと

道のこと

旅に出かけた 遙かな山並みを目指して歩いていたでも いっこうに前にすすんでいる気がしない (あれ?)手にした地図を凝視した 道との関係が奇妙なことになっているわたしが一歩すすむと道はそれを見越して三歩すすんでいたそんなことってあるのかな? (事…

皆さんご存知のように首都にはいくつもの秘密がある

臨時の特急列車が到着したのは真夜中だった雑踏のハーモニー 窓口には顔のない顔の長い列が出来ていた首都に充満するメランコリーはあの頃のままだった (回想) 待ち合わせておいたお友だちと合流した (抱擁)さあ出かけよう 手をつなぎ 肩と肩が触れあう…

水の変異

そのとき世界は均等に二十センチほど水没していた水の浮力は魔法のようで物理の法則を超えたものだったいくつもの構造体が漂流していた 十七歳の夏だった 世界を巡る水は微細な塵をまきあげ いくらか濁っていたでもそれは わたしに嫌悪の感情を抱かせるほど…

野生

ぼくたちはいつだって こんなふうに日常を愛しているそんな日常のなかで ぼくたちはあれこれ退屈している ある日のこと 夕暮れの散歩での出来事だった沼の縁で水面をめくり底を覗き込んだ (好奇心だった)ふわふわと漂う情景 不気味だけれど懐かしくもある…

カモシカの夢

雨期だった 空は灰色の雲に覆われていた降りしきる雨がけもの道を小川になって流れていた森はやがて巨大な湖へと変貌してしまうのだろうかある日 若いカモシカが低木の繁みに窓を見つけた 森に暮らすカモシカは窓の意味を知らないそれでも いくらかの好奇心…

夕暮れと夜

I 襞 15歳というのはなにかしら奇妙な年齢だと思う世界はいつも少しだけ歪んでいる たぶん5ミリくらいそれは誤差のようなものかも知れない でも…… 5ミリの誤差が10ミリになり 100ミリになって……世界は光を拒む深海のような襞に変貌してゆくのだとしたら襞の…

ジュラルミン アヴァンギャルド

ジュラルミン アヴァンギャルド 天使たちがいる凡ては可能であるときみたちは語った 翼があった 前へ―― 前へ―― まばゆい銀色の前衛 ジュラルミン アヴァンギャルド 真昼の天使たち世紀は言葉を探してモールス信号を打ちつづけた 応答セヨ―― 応答セヨ―― 〈答…

〈小さな鷹〉 チームAの報告と謝辞と歌

I 報告 チームAはチームBのレポートを詳細に解析した2012年11月29日 午後3時 調査結果を本部に提出した (諸君 お疲れさま) II 謝辞 チームAはチームBの仕事に感謝する〈小さな鷹〉 ありがとう III 歌 硝子の街は夢見る永遠の故郷だった時代の断層では…

糸車とお洒落

野原には黄と赤の糸色鮮やかな車が置いてあるそのまわりを一匹の子犬が縦横無尽に駆けまわっていたわたしは子犬を追いかけた とてもじゃないけど追いつけない息が切れた 子犬は遊ぶことの天才だ また遊びましょうC女史のアトリエがすぐ近くにあるという 訪…

冒険奇譚

I 丸い文字できみの名前が書き添えてある詩の言葉だけがたのしみを与えてくれる II 土の匂いのする納屋のなかにいた手にしたメモには〈愛の昆虫〉の文字が躍っていたこれにつづく言葉を探すのがぼくの役割らしいまかせてくれ! 冒険は得意なんだ 荒野と峡谷…

ミステリの時間

登場人物たちは誰もが真実のように思われたでも そうだろうか? (きみの推理を聞かせてくれないか)優雅な密室ではミステリアスな事件が起きるという 最後にひとりが残る あるいは誰も残らないかもしれないつまり 連続殺人事件? (そうじゃない 死体は見つ…

夢の記憶の空地で

夢の記憶の空地で子供たちが石蹴り遊びをしていたわたしもいっしょになって遊んだ 石は魔法の生命のようだかつて言葉だったものが時代の宿命のなかで燃えていた夜明けの薄闇のトンネルを抜けて幻想公国へようこそ #0207 次回 ミステリの時間 前回 レジスタン…

レジスタンス

I 病院の廊下を歩いていた もしかしたら夢かもしれない上着を脱ごう なにか現実からはじめなくてはならないああ 包帯が巻かれている 怪我をしたのは初夏だった記憶は採石場の砂利の丘のようだ 転がり落ちる小石だ オレンジの匂いがする 日傘のむこうの陽光を…

ある青年のこと 2

擬死――青年は世界のなかに隠れる眼差しの操作が世界の〈内〉と〈外〉を反転させる 擬死――夢見る魔法の世界へようこそ世界はけっして青年を探し出すことが出来ないだろう 擬死――完璧な円環にも思われた青年は虚空へと細く伸びた枝に硝子の葉を繁らせる 擬死――…

ホテル トキノヤカタ

いつの頃からかホテル暮らしをしている近未来の精巧な遠近法を思わせる巨大なホテルだった夜になると漂流をはじめる小さな部屋だった 仮住まいに不自由したことはないし退屈もしないときおり にまい貝をひらくように湖底をさまよう夢を見たぼくたちは時に隔…

猫のアリス

猫が階段を降りているでもよく見るとなにかが違う猫の脚の動きにあわせて階段が昇っているどういうことだろう? 森羅万象のまん中にいるのがすにゃわち猫にゃにゃんとも愉快にゃ 世界は猫の肉球にご奉仕する小間使にゃ猫のひげ 猫足のリズムで 世界はにゃん…

鞠十月堂