雨は降りつづいていた
この雨 いつから降っているのだろう?
雨 止みませんねぇ わたしは図書館に出かけた
ゆるやかにカーブしたアスファルトの坂道をのぼろう
丘の頂きに大きな灰色の建物が見えてきた
正面入口は湖のよう これじゃあ入れないや
裏口にまわろう 湿ったコンクリートの匂がするね
暗がりに 水草のように濡れた女の子がふたり並んで立っていた
顔と顔を近づけて ひそひそと話す声を聞いた
見つかった?
見つからないよ
うん 大丈夫
ひとりの女の子がもうひとりの子をぎゅっと抱きしめた
抱きしめられた彼女は全身がひどく汚れて手足は傷ついていた
とりとめのない夢のなかに迷い込んでしまったみたいだね
蛍光灯の光がまぶしいな 図書館はいつもどおりの静けさ
児童文学の書架をひとつずつ巡っていると
綺麗な身なりの人たちが互いの姓名を誇り語り合っていた
でもどうして?
この世界はいくつもの微細な痛ましさでみたされてゆく
雨は降りつづき 激しい流れになる
やがてここも あふれた水に沈んでしまうのだろうか?
こちらは丘の上ですからね ご心配にはおよびません
きみ おかしなこと聞きますね
わたしは なにを怖れているのだろう?
気がつくと懐かしい友人が寄り添ってくれていた
大切なのは勇気だと思うよ
ありがとう
さあ 街に帰ろう
濁流に呑み込まれそうなあの橋もいまなら渡れるだろう
#0130