〈小さな鷹〉 チームBのレポート
I
チームBは最新の探索機器を使っていた
でもそれは あまり役には立たなかったらしい
晩夏の深く暗い針葉樹の森だった
II
誰もが不安を覚えていた
わたしたちは落葉を踏みしめ歩きつづけた
どのようなときも つよいこころでありたい
互いに声を掛け合い励まし合った
突然の出来事だった 森がひらけたのだ
現れたのは白亜のコロニアル様式の大邸宅だった
奇蹟的というより どこか魔術的な時間だった
ひとの気配はなかった 廃墟なのかもしれないと思った
あまりの静けさに胸が痛くなった
もっとよく観察しないといけない
わたしたちは〈小さな鷹〉を探していた
〈小さな鷹〉はいくつかの特徴をもっている
1. 成鳥でも 大きさは鷹の1/2くらいである
2. 翼のつけ根に生殖器を持っている
3. ひとつの時代から もうひとつの時代へと飛んでゆける
(1)外観的特徴 (2)生物学的特徴 (3)神話的特徴
このなかでもっとも注目されるのは(3)の要素だろう
〈小さな鷹〉はこちらの世界から見れば神話的存在なのだ
だからこれまで研究対象としては扱われてこなかった
このことに納得できないものたちもいる
通常 神話的存在と現実存在は個別の事象として扱われる
しかし「仮設的リアリズム」ではそれがひとつに融けあう
〈小さな鷹〉はこの世界の重要な研究対象になり得るのだ
チームBをどうぞよろしく
なぜ森に白亜の大邸宅が現れたのだろう? 答えはひとつ
〈小さな鷹〉は時代の情景を止まり木にしているのだ
そこから別の時代を眺め 時空を渡ってゆく
なにひとつ見逃してはならない
声には出さなかった 屋根の上に小さな黒い影をみつけた
〈小さな鷹〉がぱたぱたと羽ばたいた ふわりと舞い上がる
上空をくるりと旋回すると羽ばたきが滑空にかわった
こっちへむかって飛んでくる!
空間は一瞬で転位するものらしい
四方を白い壁面に囲まれた写真スタジオにわたしたちはいた
もちろんこれは便宜的な描写にすぎないだろう
ひとは経験をもとにすべてのヴィジョンをつくりだす
〈小さな鷹〉は滑空をつづけていた
でもそれは けっしてわたしたちのもとを通過しない
わたしたちもまた時代を移行しているのだろうか?
どの時代へ? すべては純白の壁面だった
〈小さな鷹〉だけが時代を俯瞰して眺めることが出来る
永遠にも思われた時間のなかで先生の言葉を思い出していた
それまでの流れと不安があれば不安の方を選びなさい
皆さん 冒険をしようよ
III
チームBのレポートはここで終わっている
ここから先は繊細な解析を必要とする作業になるだろう
チームAはチームBの研究を引き継ぐことを決定した
#0202
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