鞠十月堂

詩と文学と日記のブログ

安部公房 「箱男」《4》 箱の製法

 安部公房『箱男』《3》からのつづき(1回目と目次はこちら、登場人物とあらすじは《2》に書いてあります)。

 『箱男』のシンボルともいうべき箱について語ってみよう。

箱の制作 1/8スケール

 箱男の箱をどのようにしてつくるかは、「箱の製法」に詳しく書かれている。箱男の気分を実感したいのなら、ダンボールの箱でつくってみるのがいちばんだけれど、それはちょっと大変。なので1/8スケールのフィギュアをつくってみることにした。

 制作にはダンボールと質感が似ている黄ボール紙を使用。細部も出来る限り忠実に再現してみた。

1/8スケール箱男

 1/8スケール箱男の図。

 いかが? (思っていた以上にかわいい…)

 箱男の箱についての簡単なご説明。

箱男の箱をめぐって

 安部公房は『箱男』を書くにあたって、実際にそのような箱をつくったという。講演会「小説を生む発想 『箱男』について」から少し引用してみよう。

 箱に入って、これは僕も自分でもちろん体験してみなくてはいけない。表にはさすがに出て歩く勇気ないから出なかったけれども庭などで箱に穴あけて中に入ってしばらく座って外ながめてる。これは皆さんやってみると、なかなか気持ちのいいものです。

 なるほど、庭で箱に入るのは気持ちいいらしい…… (ちょっとやってみたくなった…)

 箱男の箱について、さらに詳しくみていこう。

 『箱男』は、YouTubeなどの動画投稿サイトでも見ることが出来る(わたしが視聴したなかでは「文學ト云フ事」の箱男がよかった…)。そこに出てくる箱男とわたしがつくった箱男とでは、どうも雰囲気がちがう。

 わたしがつくった箱男は、ずいぶんとずんぐりしている。もちろん各部の大きさ(その比率)は、オリジナルを忠実に再現してある(わたしのフィギュアは時代のことも考慮して、箱男の身長を165センチに設定してあります)。

 縦横1メートルというのは、畳の半畳(約90×90センチ)よりも大きいので、箱男の箱というのは、けっして小さなものではない。というか、かなり大きい…… それにしても大きすぎないか? (箱の「縦横それぞれ1メートル」という記述は、安部公房の設定ミス?)

 (ここでは、このような大きさのダンボール箱を規格品として説明してあるけれど、ネットで調べてみるとダンボール箱にはJISなどできめられた大きさの規格というものはなくて、それぞれの業者が独自に大きさと名前をきめているらしい…)

 箱男の箱を、姿を隠したまま街のなかを移動するための衣装(?)と考えると、これほどの大きさは必要ないように思う。でも、箱男にとっての箱は、路上で生活するための住居だったりもする(「Cの場合」のところでは、箱のことを「ダンボールの移動住宅」と語っている)。箱のなかでくつろいで暮らすためには、あるていどの広さが必要なのかもしれない。

 1メートル四方の広さがあれば、そのなかで足をのばして座ることが出来るし、からだを丸めて横になることも出来る。これが60~70センチくらいだと膝をかかえて(あるいは正座して)座っていることくらいしか出来なくなる。これでは、さすがにつらい。

 このように考えると、縦横1メートルは箱の中で生活するのに最低限必要な広さだといえるかもしれない(安部公房はこのあたりのことを考慮して、箱の大きさをきめたのだろうか… どうだろう?)。

 でもね、ここであることに気がついた。一般の住宅だとドアの幅は半間、つまり約90センチほど。箱の幅が1メートルだとすると通れないよ。『箱男』の舞台のひとつは病院(診療所)で、これは一般の住宅とは少しちがうかもしれないけど、これってどうなのだろう…… (『箱男』についての謎は尽きない…)

 次回は『箱男』におさめられた写真について語ろう。

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